したから、豆小僧はえりもとから水をかけられたやうに、ぞつとして何にも言はないで、お寺へ帰りました。
二
こんなことが毎日のやうに続きました。けれども豆和尚さんは、ちつとも気がつかないでゐましたが、或日《あるひ》ふと納屋を見ると、柴《しば》で一ぱいになつてゐますから、大変驚いて豆小僧に、これは一たいどうしたわけだとききました。
「どうしたわけもありません、私《わたし》が刈り取つて来た柴がこんなに溜《たま》つたのです。」
豆小僧はとぼけた顔で答へました。しかし豆和尚さんはなか/\承知しません。しきりに問ひ詰めますから、豆小僧はとう/\真蒼《まつさを》になつて泣き出しました。
「言はれません、言つたら、お婆《ばあ》さんに殺されてしまひます。」
豆小僧が、うつかりお婆さんと言ひましたので、豆和尚さんも顔色をかへましたが、それつきり何とも言ひません。
けれども翌日《あくるひ》になつて、豆小僧が、また山に柴刈りに行くとき、豆和尚さんの前に出ますと、豆和尚さんは、待てと言つて、四枚のお守札を出して渡しました。
「このお守札は、」と、豆和尚さんは言ひました。「大般若《だいはんにや》のお札といつて、なか/\有難いものだ。もし今日お前が山に行つて、何か恐ろしいめにあつたなら、その一枚をそこに投げて、逃げるのだよ。それから後に又そんなことがあつたら、そのたんびに一枚づゝ投げて、お寺へ逃げて帰んなさい。いゝか、よく気をつけて行きなさい。」
豆小僧ははい/\と言つて、浮かない顔をして、山に柴刈りに行きました。
三
山へ行つてみますと、その日も婆《ばあ》さんは来てをりました。しかし豆小僧が妙にふさぎ込んで、眼《め》の隅《すみ》から婆さんをぢろ/\と眺《なが》めるやうですから、婆さんは気がついたらしく、れいの恐ろしい眼に角を立ててききました。
「豆小僧さん、お前はわたしのことを豆和尚さんに言ひはしなかつたらうね。」
豆小僧は黙つて首を横に強く振りました。
「言はないことはあるまい。言つたら言つたと白状しなさい。嘘《うそ》をつくとなほひどいよ。」
でも豆小僧はやはり首を横にふりました。自分でも、何にも言はないと、かたく信じてゐるのでしたから。
婆さんはそれを見ると機嫌《きげん》をなほして、いつものとほり柴《しば》を刈つて、たばねてやつてから言ひました。
前へ
次へ
全5ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮原 晃一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング