あ、おぢいさんは愈々《いよいよ》面白くてたまりませんから、また山車の先まはりをして、それを駐めては、「ゆる――す、ゆる――す。」と、言つて歩きました。五六度もかうして山車をとめて、おぢいさんは子供がいたづらをするやうな気で、喜んでゐました。
然《しか》しもう一度かうして山車を駐めるつもりで先廻りをしてゐますと、どうしたことか今度は未《ま》だおぢいさんの前に来ないうちに遠くの方で山車がとまつて動かなくなりました。そのうち見物してゐた人達は皆口々に、
「皇子さまがお通りなされるのだ。」と、言つて、さしてゐた日傘《ひがさ》をつぼめ、頭にかぶつてゐたものを脱ぎ、路傍《みちばた》にぺつたりと坐り込んでしまひました。
皇子は黄金《きん》の金具のぴか/\と光る美しい御所車におのりになつて、ゆつくり/\と通つておいでになりました。見物人は皆額を土につけて御辞儀をしてをります。ところが不思議なことにはその御所車が丁度おぢいさんの前に来ますと、ぴつたりと駐つてしまひました。
「可笑《をか》しいぞ。山車のやうに俺がゆる――す、ゆる――すと言はなければ、これも又動き出さないのかしら。」と思つて、おぢいさんはそつと頭を上げてみますと、御所車の横の方の御簾《みす》が少しあがつて、そこからこちらを御覧になつておいでなさるのは、去年おぢいさんが負《おん》ぶして火事場をおにがし申した皇子さまでした。
「おや/\あれが皇子さまであつたのか。俺はえらいことをした。」と、おぢいさんは心のうちに思ひました。そのとき一人の舎人《とねり》がやつて来て、申しました。
「大納言の冠をかぶつた御老人、皇子さまのお召でございます。御行列の一番あとに入つてお城へおいで下さい。」
おぢいさんは宮城へつれていかれて、皇子をお助け申したといふので、御褒美《ごはうび》をいたゞけるのだと嬉《うれ》しく思ひましたけれど、又考へてみますと、冠をひろつてかぶり、山車をとめて、「ゆるす/\。」といつたことで、お叱《しか》りを受けるのではないかと恐しくも思ひました。
お行列がお城に着きますと、おぢいさんは御庭先へ呼び出されました。そこへみえましたのは皇子ではなくて、一人の大納言でした。
「去年皇居に火事があつたとき、皇子さまを負《おん》ぶしてお逃がし申したのはお前ぢやな。」と、その大納言が申しました。
「ヘイ/\私でございます。どう
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