きませんでしたが、だん/\近くなつたので、その石の一つが、まぐれ当りに鷲のからだに当りました。さすがの鷲もそれには少し困つたところを、鶴はす早く逃げて、子良の近くにある小松のしげみに隠れてしまひました。


    五

 マアよい事をしたと思つて、子良《しりやう》は喜んで家《うち》に帰り誰《たれ》にも言はずにその日も暮れましたので、寝床に入つて眠《ね》ました。
 しかし二三時間も経《た》つと、誰やら女の声で御免なさい/\と言つて、雨戸をたゝく者がありますから、目を醒《さ》まして明けてみますと、其処《そこ》に昼間たすけてやつた鶴《つる》が立つてゐました。
「先程はどうも大変な御助けを受けまして何とも御礼の申し様もございません。」と、鶴は丁寧に頭を下げて言ひました。
「実は私《わたし》は貴下のお母様《かあさん》から言ひつかつて、天へお迎へに来ましたが、鷲《わし》の為めにサン/″\羽や身体《からだ》をいためられて、自分だけ低い空をとぶのがやつとでございます。ですから貴下を背負《おんぶ》してあの高い天の御殿などにはもう迚《とて》もいかれませんけれども此儘《このまま》にして置いては私の役目が果せませんから、一つ貴下《あなた》が天に御昇りになれる法をお教へ致します。」
 天《あめ》の羽衣もなく、又鶴の背にものらずに天に昇る法といふのは斯《か》うでした。
 昔天人が降つて遊んだ松原のあたりに、月のよい夜時々天から大きな釣瓶《つるべ》が繩《なは》をつけて下ろされる、それは天人が風呂をたてる水を汲むのでした。
 元から天人|達《たち》は自分で降りて来て美しい景色を眺《なが》めながら、うしほを浴びるのでしたが、伯良《はくりやう》が羽衣を隠してから後危ないから、こんな工合にしてゐるのでした。で、子良はその釣瓶《つるべ》の水をまかして、自分が代りに中に入つて行けばよいといふのでした。


    六

 子良《しりやう》は今度こそ天にのぼつて、蜃気楼《しんきろう》の御殿を見たり、お母さんに会つたりすることが出来ると、大変|悦《よろこ》んで、或《あ》る月のよく光つた晩、こつそり鶴《つる》が教へた処《ところ》に行き、松の蔭《かげ》に隠れて天から釣瓶《つるべ》の下りてくるのを待つてゐました。
 夜もだん/\更けて、月が高く昇り、松に吹く風の音がさえにさえて来ますと、果して空から大きな釣瓶が下り
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