また、「チヤンリン、チントン、ハアよいやな」と、面白くうたつてゐると、狐は子狐がかへらないのに心配して、穴からそうツと顔を出すところを、黒猫がその目に爪《つめ》をうちこんだので、狐はおそろしい泣声をあげて、穴から飛出し、黒猫と大げんかをはじめました。
そのさわぎに、をんどりがかつ/\と鳴いて飛出しましたから、幸坊は大急ぎで、それをつかまへて一さんにうちの方へ走りましたが、それから先のことは、じぶんでも、どうなつたかわからなくなりました。
五
やうやく正気にかへつた幸坊《かうばう》は、じぶんのうちの床の上にねてゐました。
「とうと[#「とうと」に傍点]は?」と、幸坊はまづかう聞きました。お母さんが枕《まくら》もとにゐて答へました。
「気がついたかい。やれ/\安心した。おまいは、どうしたんだか、あの森の中にきぜつしてゐたのだよ。」
「とうと[#「とうと」に傍点]は?」と、幸坊は又きゝました。
「心配おしでない。かへつて来たよ。」
「黒は?」
「黒もかへつて来たよ。けれども大へんけがをしてゐるよ……」
幸坊は二三日、つかれて、床にねてゐました。がおきあがると、お母さんたちにないしよ[#「ないしよ」に傍点]で、そつと森にはいつて、小さな小屋や、狐《きつね》の穴をさがしてみました。
けれども、どんなにさがしてもそんなものは影も形もありませんでした。たしかに夢ではなかつたのですが……。
底本:「日本児童文学大系 第一一巻」ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日初刷発行
底本の親本:「赤い鳥」赤い鳥社
1926(大正15)年2月
初出:「赤い鳥」赤い鳥社
1926(大正15)年2月
入力:tatsuki
校正:鈴木厚司
2005年12月2日作成
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