ろが次の日曜日に、お姉さんが大きな声でさけんだ。
「あれ、秀雄さんが、また屋根に上ぼつてよ。どうして上ぼれたんでせう、梯子もかゝつてゐないのに……」
そこで、お母さんが出て御覧になると、梯子はもとのまゝ、そこにたふしてあるのに秀雄さんはちやんと屋根の上にのぼつて、東の方を見てゐる。今日は観兵式の予行演習で、その方から、たくさんの飛行機がとんでくることを知つてゐるからだ。
「いけない、秀雄さん。あぶないわ、今梯子をかけてあげるから、早く下りてちやうだい。」
下ではお母さんが心配して、梯子をかけようとさはいでいらつしやるが、秀雄さんは下りようとはしない。そこへ、お父さんが、よそからかへつていらつした。
「なに、秀雄が屋根に上がつた。よし/\うつちやつとけ。梯子なんかかけてやらんでもよい。梯子がなくてのぼれたら、梯子がなくても下りられやう。どれ、わしがいつて下ろしてやらう。」
たうとうお父さんまでがお出かけだ。
ちやうど、そのとき、飛行機が三機、五機と隊をくんで、空をとんで来たので、まちかまへてゐた秀雄さんは、万歳をさけんで、手をあげて、むちゆうになつてゐる。
お父さんはそれを見ても、声をかけることをなさらなかつた。びつくりさしては、かへつておちるから、いけないと、お思ひなすつたのだ。
でも飛行機がはるか向ふの空に見えなくなると、しづかに声をおかけになつた。
「秀雄、さあ、もうおりて来なさい!」
秀雄さんは、ひどくしかられるかと思つてゐたのに、お父さんのお顔も、お声もあんぐわいやさしいので、安心して、そろ/\と、屋根のはじまで下りてきた。
お父さんは、そのはじのところに、柿《かき》の木が屋根にくつゝいて立つてゐるのを見つけた。
「ハハア、秀雄は梯子をとられたので、あれをつたつて屋根に上ぼることを考へついたのだな。なか/\賢い。だが、むやみと屋根にのぼるのはあぶない。よし、少し、こらしめて、もう上ぼらないようにしてやらう。」
はたして、秀雄さんは、柿の木が屋根へさしかけたうちの、一番大きな枝につかまつて、うまく柿の木の幹にうつり、だん/\と下りてきた。
ちやうど、お父さんの手がとゞくところまでくると、お父さんは、片方の手で、秀雄さんの足をしつかりとおさへ、も一方の手でその足を二つ三つたゝいて、きびしい声でおつしやつた。
「こら、悪い、言ふことをきかない足
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