てゐると、孫の巨人は、丁度私共が、バツタか蜻蛉《とんぼ》をおもちやにするやうに、二人の頭をつまんでみたり背中を指でなでてみたりするのでした。
「こら/\虫よ、」と、孫は二人が歌を止《や》めたので、申しました。「唄へ/\。」
二人は恐ろしいので、声も碌《ろく》に出ません。けれども唄はないと孫が太い指で頭をつまんでふりまはしますから仕方がありません。一生懸命に唄ひました。
「本当に悧巧《りかう》な虫だな。」と、おぢいさんの巨人は申しました。「ちやんとこつちのいふことが分るんだ。大事にして飼つて置かうね。手荒いことをして、つまみつぶしちやいけないよ。」
仙蔵と次郎作は、巨人達から、とう/\虫と見られて、その家《うち》につれていかれました。孫の巨人は、これは本当に悧巧で、美《い》い声の虫だから、今晩は抱いてねるのだと、二人を寝床の中に入れました。
困つたのは二人の漁師でした。
「仙蔵。」と、弱虫で少々馬鹿な次郎作は泣き声を出して申しました。「どうしたらいゝだらうかね。しまひにや喰《く》はれてしまやしないかしら?」
「さうだね。」と、仙蔵も心配さうに答へました。「まさかそんなこともあるまい。俺達《おれたち》が美《い》い声で唄つてやりさへすれば悦《よろこ》んでゐるのだから……」
「でもいつまでもこゝにつかまつてゐた日にやもう日本へ帰ることも出来ないが、どうかして逃げ出す工夫もないだらうか?」
「さうだな、俺《おれ》もそのことを考へてゐるんだ。お前だつて俺だつて、家《うち》にや親兄弟もあれば、女房や子供もあるんだから、生きてゐるからにや一度は帰りたいものだ。」
「ぢや今夜逃げよう。」
「さうだ、巨人達が寝てから、こつそりと海岸へ逃げて行かう。まだ乗つて来た舟もあるから、あれで沖へ出てしまへば、それからさきは又どうにか考へをつけよう。」
二人はすつかり相談をきめました。
程なく孫の巨人がグウー、ゴーと、まるで大きな岩穴へ、嵐《あらし》が吹き入るやうな鼾《いびき》をかいて眠つてしまひましたので、二人はこつそりと手を引き合つて、逃げ出しました。
「次郎作、しつかりしろよ!」
「よし、合点だ! でも暗くて方角が知れない。」
「蒲団《ふとん》の中だから暗いんだ。どつちにでも走つて、早く端に出ることだ。」
二人は一生懸命に走り出しました。けれどもまちがつて裾《すそ》の方へ走つたと
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