コナン・ドイル等が何れも深い科學の素養をもちながら、熱心な神祕主義者になつてしまつたのは他の一例である。現代文人のうちで、科學によく通じてゐる人にエチ・ヂー・ウエルズがある。彼はもういい年配であるが、まだ神祕主義にはなつてゐない。然し、彼が信じてゐる科學はふしぎにも、あらゆる點に於て神祕な不可知の領域を擴げてみせるのではないかと思はれる。
彼の著、生命の科學(平凡社版)は今、まだ一卷を出したばかりであるが、私はこれを讀んで、非常に面白く感じたと同時に、最近の科學が宗教に對して、反對どころでなく、却つてこれを肯定してゐるやうな形にも見えるのに、驚異の念に打たれたのだつた。
ほんの一例に過ぎないが、有機物、無機物の區別の如き、今日では、昔のやうに判然としなくなつた。といふのは、如何なるものも根本に於ては同じもので、只原子の組成の簡單か複雜かによつて相違するにすぎないことが明かになつたからである。
山川草木皆具佛生といつて、あらゆるものに生命をみとめる佛教の説を、科學は原子の研究によつて、實證してゐるとも見える。
私は今、ストリンドベーリの青書を譯する傍ら、そのウェルズの生命の科學を
前へ
次へ
全4ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮原 晃一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング