ん、ジウラさん、しつかりしてよ! あたしよ、ニナールよ!」
と、心配さうに叫びました。けれども、ジウラ王子は目も開けなければ、動きもしません。勇敢で賢いニナール姫も、やつぱり少女です。かうなると、もう泣声になつて、
「お父様、どうしませう。ジウラさんがこのまゝ死にでもしたら、あたしが殺したやうなものですわ。どうかして頂戴《ちようだい》よ。早く/\」
「いや、ジウラを死なしちや、お前ばかりか、わしの責任ぢや。早く城へつれて行つて、松本《まつもと》先生に手当をして貰《もら》はなけりや」
ジウラ王子はすぐお城へ運ばれ、侯の侍医をしてゐる日本人の松本氏に診察して貰ひました。別にどうしたといふわけでもなく、只《ただ》驚きの余り気絶してゐたのでしたから、間もなく息を吹き返しました。
枕元《まくらもと》にすわつて、心配してゐたニナール姫はやつと安心しましたが、それでも、目には涙をためて、言ひました。
「ジウラさん、御免なさいね。もう、肝《きも》ためしだなんて、あんな危ない目に貴方《あなた》を、あはしませんわ。あたし本当に馬鹿《ばか》だつたのねえ。でも、貴方、これから強く/\なつて、成吉斯汗《ジンギスカン》のやうな英雄になつて下さいね」
ジウラ王子はその痩《や》せて、あを白い顔に熱心の紅味《あかみ》をあらはして、うなづきました。
底本:「日本児童文学大系 第一一巻 楠山正雄 沖野岩三郎 宮原晃一郎集」ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日初刷発行
入力:鈴木厚司
校正:noriko saito
2004年8月13日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全12ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮原 晃一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング