る声や、走り廻《ま》はる足音がしました。それからまた二三発銃声がして、それがやむと、塔をさして、四五人の黒い人影が走つて来ました。
「誰《たれ》か!」
 守備隊長は入口に出て、どなりました。
「味方!」と、声がしました。つゞいて「隊長殿。賊は抵抗するので、みんな射殺《いころ》しました」と、言ひました。
「よろしい。此処《ここ》で取押へた奴《やつ》を城《しろ》へ曳《ひ》いて行け。あとでしらべるから」


    六 仏像のからくり

 ニナール姫は懐中電気をつけ、まつ先きに立つて、先程、アルライや馬賊たちが、悪事の取引きをしてゐた部屋に入りました。けれども、ジウラ王子の姿は見えません。王子どころか、生きたものは、鼠《ねずみ》一|疋《ぴき》もゐません。そして可なり広い室の向ふの壁に、たゞ大きなラマ仏の木像が三つ立つてゐるつきりでした。
「おや、ジウラ殿下はお見えになりませんね」と、守備隊長が、失望したやうに言ひました、
「うん、ゐないね。どうしたのだらう」と、キャラ侯も心配さうに言ひました。「ニナールの見ちがひぢやないかね」
「いゝえ、悪者どもは、たしかに此《こ》の部屋にゐました。見違ひぢやありませんね。もつとも、ジウラさんの姿は見やしないんですが、どこかにかくしてあるやうに、アルライが言つてゐましたから、さがしてみませう」
「でも、隠すところがないぢやないか。別な部屋に押しこめてあるんだらう」
「いや、一時押へて置くのにまつ暗な別な部屋へ、わざ/\面倒な思ひをして、入れに行く筈《はず》がありませんわ。きつと、この部屋に、何か秘密の戸口があるのよ。あたし呼んでみませう――ジウラさん、ジウラさん!」
 ニナール姫はしきりに呼んでみますけれど、何んの答へもありません。只《ただ》井戸の中で物を言つてゐるやうに、高い天井に反響するつきりでした。
 みんなは懐中電気やら、炬火《たいまつ》やら、蝋燭《らふそく》やらを壁だの天井だのにさしつけて、秘密の出入口でもありはしないかと、しきりにさがしましたけれど、一向それらしいものが見当りません。でみんな困つてゐました。
 と、そのとき、ニナール姫が、突然叫びました。
「分つたわ。あれよ! あすこよ!」
 姫の指は牀《ゆか》をさしてゐました。そこには二三寸も高く積つた埃《ほこり》の上に、大きな支那靴《しなぐつ》の跡がポタリ/\とついて、ラマ
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