けれど。末頼もしい生徒はマア学校にはなしサ。しかしあの服部のは私塾にいるが。温順で怜悧《れいり》で生いき気がないから感心サ。
宮「ソウサ僕の妹も同塾でよく毎度せわになりますが。年に似合わず親切には感心します。
葦「さようなら。
母「オヤだしぬけにおかえりか。ねえさんによろしく。
第六回
夜具|戸棚《とだな》に隣りたる一間の床の間には。本箱と箪笥《たんす》と同居して。インキのこぼれたる跡ところどころにあり。箪笥の前にはブリッキの小さなかなだらいの中に。くせ直しのきれ丁寧にたたんではいっている。その側《わき》に二三本のけすじたてに。びんぐしが横たわりてあれども。あたりはさすがに秩序整いて。取りちらしたるものもなし。今使いがもち来たりしとみゆる包みを前におきて。窓によりかかりたる一人の生徒。ふじびたいのはえぎわへ。邪見に手をつっこんで。前髪の下りたるを幾たびかなで上げながら。西施《せいし》のひそみにならえるか。靄々《あいあい》たる眉《まゆ》のあたりに。すこししわをよせて。口の中で手紙をよんでいるところへ。来かかりたる女生徒。目は大きやかなれどどこにか愛敬あるが。そっと障子を明
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