からいいけれど。
秀「ですから両親ほど大切なものはありません。お死去《なくなり》なすってから。いくら孝行をしたいとおもってもおッつかない。そんな愚痴はおやめにして。御仏壇へお線香でもあげておいでナ。オヤおかしな人涙ぐんで。そんなきのせまいことではいけませんネ。つれづれ草にもありましょう。心をもちいること少しきにしてきびしき時はものにさかう。というじゃアありませんか。なんでも気をおおきくもって。そんなことをいった人に後来《すえ》をみせて。赤い顔をさせておやんなさい。
まだ十七の乙女《おとめ》には。めずらしきまでさとりたる顔はすれども。しかすがに弟の心。亡《な》き親のことを思えば。思わずもそらにしられぬ袖の雨。顔をそむくる折も折。
「ヘイ今日は。豆腐屋でござい。
葦「姉さん豆腐屋が来たヨ。
「豆腐屋でござい。
葦「姉さん聞えないの豆腐……。
秀「きこえましたヨ。
ようように顔をなおし。
秀「きょうはいりませんヨ。
第五回
葦「御免なさいまし。
母「オオ葦男さん。なんだえすぐお通りナ。今日は一郎も家にいますし。斎藤さんも来ておいでだ」というは。本卦《ほんけ》がえりにモウ二ツ
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