ほんとうにおききなさるの。ツイこないだ婚礼をしまして……。
貞「何ですとえ。婚礼……。オヤオヤマアどうもあきれッちまいますネー。あたくしゃアちっともそんなことは夢にも……。
浜「オヤそうでしたか。その婚礼もネ。少し取込みがありまして。まだ公《おもてむき》にはいたしませんがネ。一夫一婦の大礼もあげ。私しの財産でこの家も買いましたし。召仕いの者も皆里から連れて参りましたのです。
お貞はこの話をきかぬふりにて独語《ひとりごと》のように。
貞「マアどうも実にあきれちまうよ。だからいわないこッちゃアない。篠原の嬢さんのそぶりがおかしいから。だまかされちアいけないといッたんだものを。
浜「なんですって。私しがいつ人を詐譌《さぎ》するようなことをいたしました。
貞「さぎだか烏《からす》だかしりませんが。人の男をたらしこんで。イケシャアシャアとしたお嬢さんだ。
はま子は呆《あき》れてお貞の顔を打ちまもれど。かなたはますます声高に。
貞「こんだ大坂から帰ってきたら。おもてむきせんの旦那のしってる人に。仲人《なこうど》をしてもらうつもりの咄しになっているのですよ。今さらお嬢さんにねとられましたからって。あっけらかんとしていられやアしません。ともかくも山中を出して下さい。当人にききゃアわかるこってす。サア早く旦那を出して下さい。
浜「そんなことをいったて今はここにいやアしません。お前さんがそう罵詈《ばり》なさると。さも私しのわるいようで。人の手前もありますし。みっともないから……。
貞「ナニいばるッて。ヘンいばるというのは。金があると思ッてしたい放題のことをする奴《やつ》のことです。留守のうちに亭主を盗んで。イケシャアシャアとしていられちゃア。面目《めんぼく》なくってくやしくってたまりゃアしない。早く旦那をだしてください。
浜「ぬすんだとはなんです。そう人をざんぼうなさッては。法律に触れましょう。仮にも華族の名義もありますから。
貞「オヤオヤはじめて伺いました。ひしゃくとかしゃくしとかのお姫さんは。人の男をどろぼうしても。御法にはふれないのですか。
浜「私しはどろぼうなんどということは存じません。とにかく山中は私しの殿様でござります……。早くだれか来てこの狂人《きちがい》をおもてへ出しておしまい。
貞「きちげえとはなんだ。はばかりながらしらきちょうめんの人間だ。こんなわからずやに咄し
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