め》にくらべては。二ツばかり年かさにやあらん。鼻たかくして眉|秀《ひい》で。目は少しほそきかたなり。常におさんには健康を害すなどいいてとどめたまう。かの鉛の粉《こ》にても内々用いたまいしにやあらん。きわだちて色白く。頭《かしら》はえりあしよりいぼじり巻きに巻き上げて。テッペンにいちょうがえしのごとく束《つか》ねて。ヤケに切ったる前がみは。とぐろをまきて赤味をおびたり。白茶の西洋仕立ての洋服に。ビイツの多くさがりたるを着して。少しくるしそうにはみゆれど。腹部はちぎれそうにほそく。つとめて反身《そりみ》になる気味あり。下唇の出《い》でたるだけに。はたしておしゃべりなりとは。供待ちの馬丁《べっとう》の悪口。総じていわば。十人並みには過ぎたるかたなり。前の貴嬢は少しかんじたというようすにて。
乙「しの原さん。あなたのおあにい様も。モウお帰りが近づきましたねえ。
篠原「エエ夏ごろに帰るといってまいりましたけれど。わたくしゃアいやですワ。めんどくさくって。
乙「オヤなぜでしょう。あなたおたのしみでしょうにねえ。そうして学校のお下読みや何かしておいただき遊ばすにようござりましょう。
篠「ナニわたくしはもう学校へまいりません。アノ父が胃弱で当節は大そうよわりましたし。母は御存じのわからずやですから。家事も半ば私くしが指揮いたしますので忙がしくって。
乙「オヤ。では英学はどう遊ばしました。おやめではござりますまい。でもあなたぐらいコンバルゼイションがお出来になればよろしゅうござりますネ。
篠「どうして。私くしは充分英学を勉強したい気ですから。このごろではあの御存じでしょう。山中というあの人は。学力もありますからたのんできてもらいます。随分忙がしゅうござりますよ。毎日毎日英語のけいこもいたしますし。うちのことや何かなかなか大変でござりますが。どんなに忙がしゅうござりましても。キット踏舞には参りますわ。
乙「デモおとと様がおわるくてはいらっしゃられますまい。わたくしもうちで交際の一ツだと申して勧められますけれど。どうもまだ気味のわるいような心持がいたしまして。外国人とはよう踏《おど》られません。それに学校の方が忙がしゅうござりますから。めったに参りましたことがござりませんので。お近づきがまことにござりません。
篠「ナゼあなたそんなにお気がすすまないでしょう。私くしは宅にいてくさくさしても
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