ような走り方で、ちょっと競争みたいなことをやったりしました。立派に飛ぶことの出来る動物は、ただなぐさみに、駆けてみたりするものです。ペガッサスも、蹄《ひづめ》をなるべく土地にくっつけるようにして駆けることは、少し骨が折れましたが、ちょっとそんなことをやってみたのです。一方、ビレラフォンは、子供の手を取ったまま、灌木の中からのぞいて見ましたが、こんな美しい見ものもなければ、また、これほどはげしい、きかん気の眼をした馬もないと思いました。なんだか、あんな馬に馬勒をかけて、乗り廻すなんてことを考えるのは、おそろしいような気もしました。
 一二度ペガッサスは立止まって、耳を立て、頭を振って、ぐるっと四方に頭を向けながら、何だか知らないが悪いことがありそうだということを多少感づいたような風に、くんくんとその辺を嗅ぎました。しかし、何も見えないし、何の音も聞えないので、すぐまた、おどけた身振りをしはじめました。
 とうとう――へとへとになったというのではなく、ただ怠けて、いい気持になっているだけなんですが――ペガッサスは翼をたたんで、やわらかい緑の草の上にねそべりました。しかし、あまりにも軽快な生気に満ちているので、長い間つづけてじっとしていることが出来ず、すぐに、ほっそりとした四本の脚を上にあげて、仰向《あおむけ》にころがりました。同類を神様が決しておつくりにならず、また仲間の必要なんか感じもしないで、何百年も生きて来た、このひとりぼっちの動物が、その何世紀かの長さにも劣らぬ幸福さを味わっているのを見るのは美しいものでした。それが普通の馬がいつもするようなことをすればするほど、よけいに天馬めき、ますますすばらしく見えるのでした。ビレラフォンと子供とは、一つには嬉しいような、こわいような気持から、しかしそれよりもなお、彼等がちょっとでも身動きしたり呟《つぶや》いたりしようものなら、ペガッサスが弓をはなれた矢のような速さで、青空のはてまで飛び去りはしないかと心配し、息をころさんばかりにしていました。
 とうとう、ころがるだけころがってしまうと、ペガッサスはくるりと起きなおって、呑気そうに、ほかのどんな馬でもする通りに、立とうとして前脚を突き出しました。ペガッサスがこうするだろうと、かねて見当をつけていたビレラフォンは、この時不意に繁みから飛び出して行って、その背中にひらりと跨がりました。
 そうです、彼はその翼のある馬の背中にまたがったのです!
 しかし、はじめて人間の重みというものを腰に感じた時、ペガッサスはどんなに飛び上ったでしょう! 全く、ものすごい飛び上り方でした! 息もつかないうちに、ビレラフォンは五百フィートも高いところへ上っていました。ペガッサスは、びっくりと腹立ちとで、鼻を鳴らし、からだをふるわせながら、なおも上に向けて鉄砲玉のように飛んで行くのでした。上へ上へと、どんどん昇って行って、とうとう、つめたい、霧のような雲の中へ飛び込んでしまいました。それは、つい今さっき、ビレラフォンが下から眺めて、随分気持のよさそうなところだなあと思っていたのでしたが。それからまた、雲のまん中から飛び出して、自分も乗り手ももろとも、岩にぶっつけるつもりかと思われるほどの勢いで、雷のように落ちて行きました。それから彼は、今までに鳥でも馬でもやったことはあるまいと思われるような荒っぽい跳ね方を、おおよそ千ほどもしました。
 僕はペガッサスのやったことの半分だって話すことは出来ません。彼はまっすぐに飛んで行くかと思うと、さっと横にそれたり、ぱっとあとへもどったりしました。彼は輪のようになった雲の上に前脚を乗せて、後脚の足場がまるでないところで、棒立ちになりました。彼は後脚をうしろへ投げ出して、翼をまっすぐに立てながら、頭を前脚の間へ突込みました。地上から二マイルも上のところで、宙返りもやりました。その時には、ビレラフォンも真逆様になって、空を見上げるのではなくて、見下しているような気がしました。彼はくるりと首をよじって、らんらんと燃えるような眼で、ビレラフォンの顔をにらみながら、おそろしい勢いで咬みつこうとしました。彼はあんまりはげしく翼をばたばたやったので、銀色の羽根の毛が一つ振り落されました。それはひらひらと地上にむかって落ちて行って、あの子供に拾われ、その子はそれを、ペガッサスとビレラフォンとの形見として、一生持っていました。
 しかし、ビレラフォン(彼が、今までに馬を走らせたどんな人にも負けないほどの乗り手だったことは、君達も判断がつくでしょうが)は機会を待っていて、とうとうあの魔法のかかった馬勒の金のくつわを、ペガッサスの口にはめ込みました。こうしてくつわをはめてしまうと、たちまちペガッサスは、小さい時からビレラフォンに飼われて来た馬でで
前へ 次へ
全77ページ中70ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三宅 幾三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング