王様の名前はアイオバティーズといい、治めている国はリシアといいました。ビレラフォンは世にも勇ましい青年の一人で、彼の何よりの望みは、世界中の人にほめられ、愛されるほどの勇ましい、そして世のため人のためになるような手柄を立てることでした。その時代には、青年が名をあらわすためには、彼の国の敵と闘《たたか》うか、悪い巨人か、厄介な大蛇かを向うに廻すか、それとも他にそれ以上危険な相手が見つからない時には、野獣を退治て見せるとかするほかありませんでした。アイオバティーズ王は、この若い客人の勇気をみとめて、彼に、行ってカイミアラと闘って見てはとすすめました。ほかの誰もがそれをおそれていて、そのままにしておいては、リシアの国が荒野にされてしまいかねなかったからです。ビレラフォンは少しもためらわないで、彼がこの、みんなのおそれているカイミアラを倒すか、或は闘って自分が死ぬかだと、王様に約束しました。
しかし、先《ま》ず第一に、その怪物はおそろしく速いので、彼は徒歩《かち》で闘っては、とうてい勝てないと思いました。だから、一番利口なことは、どこかで、またとないような勝《すぐ》れた、足の速い馬を見つけて来ることでした。ところが、脚のある上に翼まで生えていて、地上でよりも空中に於《おい》て更にからだが利くという不思議な馬ペガッサスほどすばしこい馬が、世界中どこを捜しても、ほかにあるでしょうか? いかにも、大多数の人は、翼の生えた馬なんかあろう道理はない、ペガッサスのことなんか全然つくりごとで、ナンセンスだと言いました。しかし、いくら不思議なようでも、ビレラフォンはペガッサスが本当にいる名馬だということを信じ、どうかしてうまくそれを自分で見つけたいものと思いました。そして、一旦その背にしっかりと跨がれば、もう彼は、カイミアラに対して有利に闘うことが出来ると思いました。
そして、彼がはるばるリシアからギリシャへやって来たのも、美しく飾った馬勒を持って来たのも、このためでした。その馬勒には魔法がかけてありました。もしも彼がペガッサスの口に、うまくその金のくつわをはめることが出来さえすれば、翼のある馬もおとなしくなって、ビレラフォンを主人として、彼の手綱の引き方一つで、どっちへでも飛んで行くでしょう。
しかし、実際、ペガッサスがいつかはピリーニの泉へ水を飲みに来るだろうと思って、ビレラフォンが待ちに待っている間というものは、いやになってしまうほど長く、そして気がもめました。彼はカイミアラから逃げ出したという風に、アイオバティーズ王に思われはしないかと心配しました。また彼は、カイミアラと闘いもしないで、きれいなピリーニの泉の水がきらきらした砂の中から湧き出して来るのを、こうして仕方なしにぼんやりと眺めている間に、あの怪物がどれほど多くの害をしているかを考えると、心苦しくなりました。そして、ペガッサスは、近年ではこっちへ出て来ることは稀で、人の一生の間に一度くらいしかおりて来ないので、ビレラフォンは、その翼のある馬が現れるまでに、彼はおじいさんになってしまって、腕の力も心の勇気もなくなってしまうのではないかと心配しました。おう、一人の冒険的な青年が、この世に生れて来た役目を果して、世界に名を挙げる日を待ちこがれているのに、なんと時間はのろくさくたって行くのでしょう! 待つということは、何というつらい教訓でしょう! われわれの一生は短い、それなのに、ただそれだけのことをわれわれに教えるために、何と長い時間をとるのでしょう!
あのおとなしい子供が、彼にすっかりなついてしまって、少しも厭きることなく彼の傍についていてくれたのは、ビレラフォンにとって仕合せでした。毎朝その子供は、彼の胸の昨日の希望が凋《しぼ》んだあとへ、新しい希望を与えてくれました。
『ビレラフォン兄さん、』彼の顔を、希望に満ちて見上げながら、その子はいつも叫ぶのでした、『僕達、今日はペガッサスを見そうな気がするよ!』
そして、もしもこの小さな男の子の、ぐらつくことのない信念がなかったら、ビレラフォンはおしまいに希望をすっかり捨ててしまって、リシアへ帰って、翼のある馬の力を借りないで、一生けんめいカイミアラを倒そうとしていたかも知れません。そして、その場合には、気の毒なビレラフォンは、少なくとも、その怪物の息吹《いぶき》でひどい火傷《やけど》をして、その上十中八九までは、殺されて、食われてしまっていたことでしょう。何人《なにびと》も、まず天馬の背に跨がることが出来なければ、地に生れたカイミアラと闘おうとしてはならないのでした。
或る朝、例の子供は、いつもよりも一層希望に満ちて、ビレラフォンに言いました。
『大好きなビレラフォン兄さん、』と彼は叫びました、『僕なぜだか知らないけれど、今日こそ
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