向うの方に、納屋《なや》のある家が一軒建っていた。その家には、世の中とはかけはなれたような一家族が住んでいた。そして、雨を降らしたり、谷間に吹雪《ふぶき》を積らせたりする雲が、この佗《わび》しい、淋しい住居よりも下の方にかかることもめずらしくなかった。
 丘の一番高いところには石が積んであって、そのまん中に長い棒を立て、その棒のさきには、小さな旗がひるがえっていた。ユースタスは子供達をそこへ連れて行って、彼等に、四方を眺めて、われわれの住む美しい世界がどんなに広く一目《ひとめ》で見渡せるか、まあ見るがいいと言った。そして、子供達は四方の景色を見て、目をまるくした。
 南の方に見えるモニュメント山は、相変らず景色の中心にはなっていたが、何だか、低く落ち込んでしまって、今では沢山の丘のかたまりのうちの、あまり目立たない一つのような気がした。その向うに、タコウニック山脈が、今までよりも、高く、大きく見えた。われわれのきれいな湖が、その小さな湾や入江をすっかり見せていた。そして、それ一つだけではなく、今まで見たことのない湖が二つ三つ、太陽にむかって碧《あお》い眼をあけていた。それぞれ教会堂のある、いくつかの白い村が、遠くの方に散らばっていた。幾|町歩《ちょうぶ》もある森林や、牧場や、草刈場や、耕地などのある農家が、あまり沢山あるので、子供達の頭は一杯になってしまって、そうしたいろいろのものを、みんな詰め込みきれないほどだった。それからまた、彼等が今日まで世の中のとても大切な頂上のように思っていた、タングルウッドがあった。それが、こうして見ると、ほんのちょっとした場所を占めているだけなので、その在処《ありか》を見つけるまでには、とんだ遠方を眺めたり、右や左を見たりして、みんなで相当長い間捜したのだった。
 白い、羊の毛のような雲が空に浮かんで、山野《さんや》のここかしこに、黒い影を投げていた。しかし、まもなく、影になっていたところに陽が当って、影はほかのところへ移って行った。
 はるか西の方に、青い山脈が見えていたが、ユースタス・ブライトは、それがキャッツキルの山々だと子供達に教えた。あのぼんやりとかすんだ山の中に、幾人かの年取ったオランダ人が、いつ終るとも知れない九柱戯をやっていたところがあって、またリップ・ヴァン・ウィンクルという怠者《なまけもの》が、二十年もぶっ続けに眠ったというのもそこだと彼は話した。子供達はユースタスに、その不思議な事柄について、すっかり話してくれと熱心に頼んだ。しかしその学生は、その話はもう、前に一度話した人があって、それ以上上手にはまたと誰もやれないくらいで、それが「ゴーゴンの首」や「三つの金の林檎」その他の不思議な伝説ほど古くなるまでは、誰にもその一言《ひとこと》だってつくり変える権利はないのだと答えた。
『でも、』とペリウィンクルは言った、『あたし達がここで休んで、方々を眺めている間に、あなたは御自分でつくった、ほかの話をして下さるくらいなことは出来るでしょう。』
『そうよ、ユースタスにいさん、』とプリムロウズは叫んだ、『あたしあなたがここでお話をして下さるようにおすすめするわ。何か高尚な題を考えて、あなたの空想がそこまで行けないものか、ためしてごらんなさい。多分山の空気が今日に限って特別にあなたを詩的にすると思うわ。そして、そのお話が、どんなに変った、不思議なものでもかまいません。あたし達はこうして雲の中にいるんだから、どんなことでも信じることが出来ますわ。』
『じゃ、昔、翼の生えた馬がいたなんてことを本当に出来る?』とユースタスは尋ねた。
『ええ、』と生意気なプリムロウズは言った、『しかし、あなたはとてもそれをつかまえられそうもない気がするわ。』
『それくらいなことはなんだ、プリムロウズ、』と学生は答えた、『僕は多分ペガッサスをつかまえることは出来そうだ。その上、僕の知っている十人以上の人物に負けないくらい上手に、それに乗ることも出来そうだな。とにかく、ペガッサスについての話があるんだ。そして、ほかのどんなところよりも、その話をするには、こうした山の上がいい。』
 そこで、彼は積んである石の上に腰をおろし、子供達はその下にかたまって、ユースタスは、近くを飛んで行く白い雲をじっと見つめながら、次のように話しはじめた。
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    カイミアラ

 古い、古い昔のこと(というのは、僕がお話するような不思議なことはみんな、誰も覚えていないような大昔に起ったことですから)、不思議の国、ギリシャの或る丘の中腹から、一つの泉が湧き出ていました。そして、何千年もたった今日《こんにち》でも、やはりそれは全く同じ場所から湧き出ていることだろうと僕は思います。とにかく、その気持のいい泉が、金色の入日をうけて
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