ならば、われわれも不思議だと思うようなことが、いろいろ沢山ありました。その代りにまた、今日《こんにち》のいろいろの出来事のうちには、われわれにとって不思議な気がするばかりでなく、昔の人が見たら目をまるくしてしまうような事も沢山あるでしょう。全体からいうと、昔と今とでは、今の方が僕は不思議な時代だと思う。しかし、それはどうでもいいとして、僕は話を進めなければならない。
マイダス王が或る日例によって、宝の庫にはいって楽しんでいる時、山と積んだ金の上に影がさすのに気がつきました。ふと顔を上げると、これはまたどうしたことか、一人の見たことのない人の姿が、明るい、細い日光の中に立っているのです! それは快活そうな、血色のいい顔をした青年でした。あたりの物すべてが金色を帯びて見えるのは、マイダス王の気のせいか、それとも何かまた原因があるかは知らないが、彼はその見知らぬ人が彼に向ける微笑の中に、一種の金色の光が含まれているような気がしてなりませんでした。たしかに、見知らぬ人の姿が日の光をさえぎっているにも拘らず、積み重ねられたすべての宝が、今では、前よりも一層光り輝いているのです。一番隅っこの方までが、その人がにっこりと笑うと、まるで焔《ほのお》や火花に照らされたように、ぱっと明るくなるのでした。
マイダスは錠前の鍵をちゃんと下しておいたこと、それから人間の力ではとてもこの宝の庫に侵入することが出来ないことを知っていましたので、勿論、この人は人間以上の何者かに違いないと判断しました。その人は誰だったかということは、別にここで言わなくてもいいでしょう。まだ地球が比較的新しい物だったその頃には、男や女や子供達の喜びや悲しみに、半分は冗談に、半分は真面目に、興味を持った、超自然な力を具《そな》えた、神様みたいな人が、よくやって来たらしいのです。マイダスは前にもそんな人に出会ったことがあるので、またやって来られて困ったとは思いませんでした。実際、その見知らぬ人の様子は、慈悲深いとは云えないまでも、たいへん愛想がよく、やさしそうなので、何か悪いたくらみがあって来たのではないかと疑ったりすることは間違っているような気がしました。それよりもずっと、マイダスに好意を持って来てくれたらしい気がしました。とすれば、彼の宝の山をもっと大きくしてやろうという以外に、好意はない筈じゃないかしら?
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