のかけらをぎゅっとつかんでいたのは、誰か哀れな人間をずたずたに引裂いている夢でも見ていたのでしょう。彼等の頭の髪の代りに生えている蛇も、やはり眠っているようでした。尤も、時々、身をよじって、頭をもたげ、ねむいような、しゅっしゅっという音を立てて、叉《また》になった舌を出すのもいましたが、それもすぐ仲間の蛇の間にもぐってしまいました。
 ゴーゴン達は、とても大きな、金の翅《はね》をした甲虫というか、蜻蛉《とんぼ》というか、まあそういったもの――醜いと同時に美しくて――とにかく他のどんなものよりも、恐しい、大きな一種の昆虫に似ていました。ただそれが昆虫の千倍も百万倍も大きかっただけです。それでいながらまた、どことなく人間みたいなところもありました。仕合せなことは、彼等の寝ている姿勢によって、彼等の顔はパーシウスの方から見ると、すっかりかくれていました。というのは、彼がちょっとでもその顔を見たら、たちまち死んだ石の像になって、空中からどうっと墜《お》ちてしまったでしょうから。
『今だ、』とクイックシルヴァは、パーシウスの傍を飛び廻りながら小声で言いました、『今こそ君がゴーゴンの首を切る時だ! 早くしたまえ、もしゴーゴンのうちのどれかが目を覚ましでもしたら、もうおしまいだから!』
『どれに切ってかかればいいんでしょう?』とパーシウスは、剣を抜いて、も少し下の方へおりて行きながら言いました。『彼等三疋はみんな同じようじゃあありませんか。三疋とも蛇の髪をしています。三疋のうちどれがメヅサですか?』
 これらの竜みたいな怪物のうち、パーシウスが首を落すことが仮りにも出来るのは、メヅサだけだったということを知っておかなければなりません。他の二疋に至っては、パーシウスが、それまでに鍛えられたどんな銘刀を持って来て、何時間ぶっ続けに切りつけようが、少しも手応《てごたえ》はなかったでしょう。
『気をつけて、』と、前にもパーシウスに話しかけた静かな声が言いました。『ゴーゴン達のうちの一つが、寝ながらむくむく動いて、ちょうど寝がえりをしかけているでしょう。あれがメヅサです。彼女を見ないで! 見たらあなたは石になってしまいますよ! あなたのよく光った盾の鏡に映《うつ》ったメヅサの顔や姿を見るんです。』
 パーシウスはこの時初めて、クイックシルヴァがあんなに熱心に、盾を磨けと言ったわけが分りまし
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