ている者が、その間中、鋭くあたりを見廻しながら、他の二人の手を引いて歩くのでしたが、その目附があまりきついので、パーシウスは彼とクイックシルヴァとが隠れている深々《ふかぶか》と茂った藪まで突き通して見られやしないかと、びくびくものでした。いやどうも、そんな鋭い目の届くところにいるのは、本当に恐しいことでした。
 しかし、彼等がその藪まで来ないうちに、三人の白髪婆さんの一人が口を切りました。
『もし! スケヤクロウさん!』と彼女は叫びました。『あんたは十分長く見たじゃないか。もうあたしの番だよ!』
『もうちょっとの間、あたしに借《か》しといておくれ、ナイトメヤさん、』とスケヤクロウは答えました。『あの茂った藪の蔭に、あたし何かちらっと見えたような気がするからさ。』
『へん、それがどうしたっていうの?』とナイトメヤはすねたように言い返しました。『あたしには、あんたのようにたやすく茂った藪の中が見えないとでもいうの? その眼はあんたのものでもあり、あたしのものでもあるんだよ。そしてあたしはあんたに負けない位、その眼の使い方を知っている。いや、どうかすると、もっと上手かも知れない。どうあっても、すぐにちょっと見せて貰わないと困るよ!』
 しかしこの時、三人目のシェイクヂョイントという姉妹が、ぶつぶつ言い出しました。彼女の言い分は、彼女が見る番だのに、スケヤクロウとナイトメヤとが、いつでも二人きりで眼を持っていたがるというのでした。この口論をやめるために、スケヤクロウ婆さんは、額から眼をはずして、それを手に持って差出しました。
『どちらでもお取りよ、』と彼女は叫びました、『そして、このくだらない喧嘩を止してよ。あたしは、まあしばらく真暗闇《まっくらやみ》を楽しみましょう。でも、はやくお取りったらさあ。でないと、あたしがまた額に嵌めてしまうよ!』
 そこで、ナイトメヤとシェイクヂョイントとは、二人とも手をのばして、スケヤクロウの手から眼をひったくろうとしてさぐり廻しました。しかし二人とも同じようにめくらですから、スケヤクロウの手の在処《ありか》が容易に分りません。スケヤクロウも亦、今はシェイクヂョイントやナイトメヤと同様真暗闇ですから、眼を渡そうにも、すぐにはどっちの手にも出くわさないのです。こうして(君達利口な子にはすぐ分る通り)これら三人のおばあさん達は、おかしな風にまごつ
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