いた手を放して、その大変な高さから、地上に向って落ちて行きました。そして、そいつの胸の中の火は、消えるどころか、前よりも一層はげしく燃立って、たちまちその死骸を焦がしはじめました。そんなわけで、怪物はすっかり火になって空から落ちましたが、それが地にとどくまでに、夕方になったので、流れ星や箒星《ほうきぼし》と間違えられました。しかし、あくる朝、その辺に住む人達が働きに出ようとして、何|町歩《ちょうぶ》かの土地に黒い灰がちらばっているのを見てびっくりしました。或る畠のまん中には、白い骨が乾草堆よりもずっと高く、山のようになっていました。あのおそろしいカイミアラの名残《なごり》は、そのほかにはなんにもありませんでした!
 そして、ビレラフォンは、こうして勝利を得た時、前かがみになって、ペガッサスに接吻しました。その時、彼の眼には涙がうかんでいました。
『さあ帰ろう、わが愛馬よ!』彼は叫びました。『ピリーニの泉をさして帰ろう!』
 ペガッサスはこれまでよりも更に速く、滑るように空中を飛んで、いくらもかからないで、その泉へ着きました。そこにはあの老人が杖にもたれ、百姓男は牛に水を飲ませ、きれいな娘は瓶に水を汲んでいました。
『今になって思い出したが、』と老人は言いました、『わしはまだ全くの若者だった頃、一度この翼のある馬を見たことがあるよ。しかし、その時分には、この馬も今の十倍も立派だったがなあ。』
『わしはこの馬の三倍の値打のある荷馬車馬を持っているよ!』と百姓男は言いました。『もしもこの小馬がわしのものだったら、第一にわしはその翼を剪《はさ》んでしまうね!』
 しかしあの気の弱い娘は何も言いませんでした。というのは、彼女はいつも、こわがらなくてもいい時にこわがるようなことになってしまうのでしたから。そんなわけで、彼女は逃げ出して、水瓶をひっくりかえして、それをこわしてしまいました。
『あのおとなしい子供はどこにいます?』とビレラフォンは尋ねました、『いつも僕の傍にいて、決して信念を失わず、飽《あ》きもしないで泉の中を見つめていたあの子は?』
『僕ここです、ビレラフォンさん!』とその子供は、やさしく言いました。
 その小さな子は、実は、毎日々々ピリーニの泉の傍で、彼の友達が帰って来るのを待っていたのですが、ビレラフォンがペガッサスに跨がって、雲の中からおりて来るのを見ると、
前へ 次へ
全154ページ中149ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三宅 幾三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング