『よく帰って来てくれたね、』声が届くほどのところへ巨人が来た時、ハーキュリーズは叫びました。『で、金の林檎を取って来てくれたんだね?』
『そう、そう、』アトラスは答えました、『そして、なかなかいい林檎だよ。ほんとに、わしはあの木になっているうちで、一番立派なのを取って来たんだから。ああ! ヘスペリディーズの庭って、美しい所だ。そう、それから百の頭をした蛇は、誰でも一ぺん見とく値打はあるねえ。何といっても、お前は自分で林檎を取りに行った方がよかったぜ。』
『そんことはどうだっていいよ、』ハーキュリーズは答えました。『君は気持よく散歩して来たんだし、それに僕が行っても同じで、用は足りたんだから。お骨折《ほねおり》ねがって、ほんとうにありがとう。しかし、もう、僕は道も遠いし、かなり急いでもいるし、――それに、僕のいとこの王が金の林檎を待ちかねているしするから、――何とかもういっぺん、僕の肩から空を受取ってもらえまいか?』
『どうも、そいつは、』と、巨人は金のりんごを空中へ二十マイルかそこいら、ぽいとほうり上げてまた落ちて来るところを受けとめながら、言いました、――『そいつは、お前、少しお前の方が無理だと思うんだがね。わしの方がお前よりもずっと早く、お前のいとこの王様のところへ、金の林檎を持って行けはしないかね? 陛下がそんなにお待ちかねなんだから、わしは出来るだけ大股で行くことをお前に約束するよ。それにまた、わしはちょっと今のところ、空を背負込《しょいこ》もうなんて気はないね。』
 そこでハーキュリーズは、じれったくなって来て、大きく肩をすぼめました。もうそろそろ暗くなりかかっていたので、その場にいたら、お星様が二つ三つその座からころがり出すのが見えたでしょう。地上の人はみんなびっくりして上を向いて、次には空が落ちて来はしないかと思いました。
『おう、そんなことをしちゃいけない!』巨人アトラスは、大きな声で吼えるように笑って言いました。『わしはこの五百年間にだって、そんなに沢山の星を落っことしはしなかったよ。わしほど長い間そこに立っているうちには、お前も辛抱というものを覚えて来るようになるだろう!』
『なんだと!』ハーキュリーズはひどく腹を立てて叫びました、『君は僕にいつまでも、この重いものを背負《しょ》わしとくつもりか?』
『そのことについちゃ、いずれ日を改めて相談する
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