して、腕をひろげて、駆けて行った瞬間から、あとはもうどんなことが起ったのか、なんにも覚えがなかったからでした。
 彼女のお父さんは、可愛い娘に、自分がどんなに大馬鹿だったかをわざわざ話す必要もないと思ったので、今ではどんなに賢くなったかを見せるだけにしておきました。そうして賢くなったところを見せるために、彼はメアリゴウルドを庭へつれて行って、残りの水をすっかり薔薇の藪の上にふりかけました。するとその利目《ききめ》がとてもよくあらわれて、五千以上の薔薇の花が、もと通り美事に咲き匂いました。しかし、死ぬまでマイダス王に、何でも金にする力を思い出させたものが二つありました。その一つは、庭の下を流れる川の砂で、いつまでも金のように輝いていました。他の一つは、今では金色になっているメアリゴウルドの髪の毛で、彼の接吻の力で彼女が金になるまでは、そんなことはなかったのでした。この色合《いろあい》の変化は、本当に前よりもよくなったというもので、メアリゴウルドの髪を赤ちゃんの時よりも立派に見せました。
 マイダス王は、すっかりいいおじいさんになって、いつもメアリゴウルドの子供達を膝にのせて、ぴょんぴょんさせたりしながら、この不思議な話を、僕が今君達にしたのと大体同じように、話して聞かせるのが好きでした。そのあとで、いつも彼は孫達のつやつやした巻毛を撫でながら、だからお前達の髪もお母さんの筋を引いて、やっぱり豊かな金色をしているんだよと教えるのでした。
『そして、本当のことを言えばね、わしの可愛い孫達、』と、しきりにその間も子供を膝の上でぴょんぴょんさせながら、マイダス王は言うのでした、『その朝からというものは、わしはこのほかの金色のものはすべて、見るのもいやになってしまったんだよ!』
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     シャドウ・ブルック
       ――話のあとで――

『どう? 君達、』と、聴手《ききて》からはっきりした意見を引出すことの好きなユースタスは尋ねた、『生れてから、この「何でも金になる話」よりもいい話を聞いたことがある?』
『だって、マイダス王の話なんて、』と、生意気なプリムロウズが言った、『ユースタス・ブライトさんが生れる前から、何千年も有名だったんだし、また、にいさんが死んだあと何千年でもやっぱり評判は落ちないでしょう。しかし、世の中には「何でも鉛にする力」といったよう
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