かせた。村の農民組合支部の幹部としての自分についても語った。源吉にとってはすべてが新らしい未知の世界だった。むさぼるように彼は山本の話を聞いた。――「秋までにはきっとお前の村さ行ぐからな。」そう山本は別れしなに言った。
 一人になって源吉はあるき出した。人家が絶えて、道は片側が山、片側が原野であるところへ来た。はじめてこの町へ入った当時の積雪は跡形なく消えて、ものかげに汚れた雪がのこっているだけだった。黒土には黄いろい草が萌え、いたやかえで、おおなら、かしわなどの木の芽が芳しい香りを匂わせていた。源吉はいくどもふりかえっては積丹岳を仰ぎ見た。山裾からすでに半ば以上あらわれたうす紫いろの山肌が、やわらかい春の陽のなかにけぶっていた。[#20字下げて、地より1字あきで]――一九三四年五月――



底本:「島木健作全集 第一巻」国書刊行会
   1976(昭和51)年2月10日印刷
   1976(昭和51)年2月20日発行
※底本の解題によれば、初出の『文學評論』第一巻第五號夏期創作特輯號(1934(昭和9)年7月1日発行)に発表された際には、以下が「…」を用いて伏せ字とされた。
・身ぐるみ剥ぎとって行ぐ奴からさかしまに剥ぎとってやるまでよ![#初出時「………………………行ぐ奴からさかしまに……………やるまでよ!」]
・地主よ、地主に目がつかんかい、地主に。[#初出時「……よ、……に目がつかんかい、地主に。」]
・貧乏人同士みんなして一つに固まるのよ。[#初出時「貧乏人同士みんなして……………………。」]
・遊んでただままくらってる地主に奪られねえ工夫するこった。[#初出時「…………………………………………………工夫するこった。」]
・死にに行く奴に金を返せって法があるかい、[#初出時「「………………行く奴に金を返せって法があるかい、」]
・そんなことで戦争に勝てっかい![#初出時「そんなことで……に勝てっかい!」]
・世のなかの仕組みがちゃんとそういうふうにできているんだ。[#初出時「世のなかの………がちゃんとそういうふうにできているんだ。」]
・つまり二重にしぼられてるんだ。[#初出時「つまり二重に……………………。」]
・三重にも四重にも搾られてることになろうが。[#初出時「三重にも……………………………………。」]
・こないだみてえに折角かたまって戦っても[#
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