めん》にも出た。冬には木樵もやった。しかも年中南瓜と芋ばかり食っていなければならないとすれば、――南瓜と芋ばかり食いながら、しかもなお毎年毎年小作料と税金の滞納に苦しめられなければならないとすれば、一体どうしたらいいんだ。出口はもうない。えたいの知れない不可抗力にずるずると引ずりこまれて行くばかりだ。いらだたしい思いがぐっと胸をつきあげて来て、糞でも食らえと彼はふたたび荒々しく肚のなかで叫んだ。
――とろとろと眠りかけたかとおもうと、ぞっとする寒さを襟もとに感じて源吉は目をさました。生つばがしきりに出て口のなかは灼けるようだった。
ふと彼は身近になにかもののけはいを感した。高い天井に下っている石油ランプのうす暗い光のなかで、源吉はじっと目をすえて見た。すぐ彼の目の前にまるい大きな頭が横たわってい、金つぼ眼を大きく見ひらいて、またたきもせず彼の顔を見まもっているのだ。
「ああ、臭《くせ》え、臭え。」
源吉が彼の存在に気づいたと知ったとき、その男は大きな掌で顔の前を払いながらいった。「安酒くらって来やがったな。」
ずけずけと言う男の言葉ではあったが、不思議に怒れないものがそのなかにあった。源吉はむすっとしたままだまっていた。
「おめえ、なんにも着ていねえな。酔いざめに冷えてはわるかんべえに。これを着るべし。」
そういって男は自分のどてらを脱いで源吉の上にかけてくれた。ことわるのも面倒くさく、彼はするがままに任せてだまっていた。寝ようとして三十分ほどそうしていたが、目がさえてもう寝つかれなかった。立上って、炊事場に行って柄杓からじかに水をのんだ。うす氷りを破ってのむ水は、灼け切った腹にいたいほどにしみた。彼はおもわずぶるぶると身ぶるいした。
寝床にかえってみると、先の男は起上って鉈豆で一服やっていた。源吉も坐って一服のんだ。しきりに何か話しかけたいふうに見え、男は自分から山本と名のり、源吉の名を訊いた。源吉はなんとなくこの男に好意が持てた。彼は返事をし、問われないさきに、この町から三十里ほど東のN村のものだと自分から進んで名のった。山本は俺は上川のK村だといい、おれはそうだがお前も小作百姓か、ときいた。源吉はそうだと答えた。話をしているあいだに彼は気がついた。宵の旦那の家での安着祝の席上で、監督の話の最中に、ほほう、えれえこった、と途方もない大声を出したのはこ
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