の寝台の畳はすでに半ば腐り、敷布団《しきぶとん》と畳の間には白いかびが生《は》え、布団には糞がついてそれがカラカラにひからびていた。――そして同居人である同じ病人たちは、この死に行く老人の枕もとでこの老人に運ばれる水飴の争奪に余念もなかったのである。
何という浅ましい人生の姿であろう。
太田は慰めのない、暗い気持で毎日を暮した。病気が原因する肉体の苦痛とは別に、このままで進んだならばいつしか生きることをも苦痛と感ずるような日が、やがて来るだろうと思われた。この予感に間違いはないのだ。その時のことを思うと彼の心はふるえた。――人間はしばしば思いもかけぬことに遭遇し、何か運命的なものをさえ感ずることがあるものである。太田がこの病舎生活のなかにあって、ゆくりなくも昔の同志、岡田良造に逢ったのは、ちょうど、彼がこの泥沼のような境地におちこみ、そこからの出口を求めて、のた打ちまわっている時であった。
6
うとうとと眠りかけている耳もとに、遠くの監房の扉を開く音が聞える。――人の足音に何か物を運び入れるような物音もまじっているようだ。全身が何とはなしに熱っぽく、一日のうちの大部
前へ
次へ
全80ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島木 健作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング