たも病気ですか、なんの病気なんです? そしていつからここに来ているんです」
 明らかに軽蔑《けいべつ》されつき放された心細さに、いつの間にか意気地なくも相手に媚《こ》びた調子でものを言っている自分をさえ感じながら、太田はせき込んで尋ねたのであった。
「わしは五年いるよ」
「五年?」
「そうさ、一度ここへ来たからにゃ、焼かれて灰にならねえ限り出られやしねえ」
「あんたも病気なんですか、それでどこが悪いんです?」
 男は答えなかった。くるっと首だけ後ろに向けて、ぼそぼそと何か話している様子だったが、またこっちを向いた。その時気づいたことだが、彼は別にふところ手をしている風にもないのだが、左手の袖《そで》がぶらぶらし、袖の中がうつろに見えるのであった。
「わしの病気かね」
「ええ」
「わしは、れ・ぷ・ら、さ」
「え?」
「癩病《らいびょう》だよ」
 しゃがれた大声で一と口にスバリと言ってのけて、それから、ざまア見やがれ、おどろいたか、と言わんばかりの調子でヘッヘッヘッとひっつるような笑い声を長く引きながら監房の中に消えてしまった。その笑い声に応じて、今まで静かであった監房の中にもわっという叫
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