癩
島木健作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)暑さ寒さも肌《はだ》に穏やかで
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)血気|壮《さか》んな男たちが
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)黒いしみ[#「しみ」に傍点]
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1
新しく連れて来られたこの町の丘の上の刑務所に、太田は服役後はじめての真夏を迎えたのであった。暑さ寒さも肌《はだ》に穏やかで町全体がどこか眠ってでもいるかのような、瀬戸内海に面したある小都市の刑務所から、何か役所の都合ででもあったのであろう、慌《あわ》ただしくただひとりこちらへ送られて来たのは七月にはいると間もなくのことであった。太田は柿色《かきいろ》の囚衣を青い囚衣に着替えると、小さな連絡船に乗って、翠巒《すいらん》のおのずから溶けて流れ出たかと思われるような夏の朝の瀬戸内海を渡り、それから汽車で半日も揺られて東海道を走った。そうして、大都市に近いこの町の、高い丘の上にある、新築後間もない刑務所に着いたのはもうその日の夕方近くであった。広大な建物の中をぐるぐると引きまわされ、やがて
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