赤蛙
島木健作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)冷《ひ》いやりとした風

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(例)[#地から2字上げ](昭和二十一年一月)
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 寝つきりに寝つくやうになる少し前に修善寺へ行つた。その頃はもうずゐぶん衰弱してゐたのだが、自分ではまだそれほどとは思つてゐなかつた。少し体を休めれば、ぢきに元気を回復するつもりでゐた。温泉そのものは消極性の自分の病気には却つてわるいので、私はただ静かな環境にたつたひとりでゐることを欲したのである。修善寺は前に一晩泊つたことがあるきりで、べつにいい所だとも思はなかつたが、ほかに行くつもりだつた所が、宿の都合がわるいと断つて来たので、そこにしたのだつた。
 宿についた私はその日のうちにもうすつかり失望して、来たことを後悔しなければならなかつた。実にひどい部屋に通されたのだ。それは三階の端に近いところで、一日ぢゆう絶対に陽の射す気づかひはなく、障子を立てると昼すぎの一番明るい時でも持つて来た小型本を読むのが苦労だつた。秋もまだ半ば頃なのだが山の空気は底冷えがする。熱も少しあるら
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