ァ」と、一行を見送りつついつまでも口を尖《とが》らしている。こっちがケチなのではない。山男のくせに欲張るからとんだ罵倒《ばとう》を受けたのだ。
(八)盆踊り見物
それより山道を或《ある》いは登り、或いは降《くだ》り、山間の大子《だいご》駅の一里半ほど手前まで来かかると、日はタップリと暮れて、十七夜の月が山巓《さんてん》に顔を出した。描けるごとき白雲は山腹を掠《かす》[#ルビの「かす」は底本では「さす」]めて飛び、眼下の久慈川《くじがわ》には金竜銀波|跳《おど》って、その絶景はいわん方《かた》もなく、駄句の一つも唸《うな》りたいところであるが、一行は疲れ切っているのでグウの音も出ず、時々思い出したように、オイチニ、オイチニなどと付景気《ついげいき》をして進んで行くと、この山中|諸所《ところどころ》の孤村では、今宵の月景色を背景に、三々五々男女|相集《あいあつま》って盛んに盆踊りをやっているが、我が一行の扮装《いでたち》は猿股一つの裸体《はだか》もあれば白洋服もあり、月の光に遠望すれば巡査の一行かとも見えるので、彼等は皆|周章《あわ》てて盆踊りを止《や》め、奇妙頂来な顔付をし
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