いま》は日數《ひかず》も二週《ふためぐり》あまりを※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、73−5]《す》ぎて眞《しん》の闇《やみ》――勿論《もちろん》先刻《せんこく》までは新月《しんげつ》の微《かす》かな光《ひかり》は天《てん》の奈邊《いづく》にか認《みと》められたのであらうが、今《いま》はそれさへ天涯《でんがい》の彼方《かなた》に落《お》ちて、見渡《みわた》す限《かぎ》り黒暗々《こくあん/\》たる海《うみ》の面《おも》、たゞ密雲《みつうん》の絶間《たへま》を洩《も》れたる星《ほし》の光《ひかり》の一二|點《てん》が覺束《おぼつか》なくも浪《なみ》に反射《はんしや》して居《を》るのみである。
實《じつ》に物淋《ものさび》しい景色《けしき》※[#感嘆符三つ、73−10] 私《わたくし》は何故《なにゆゑ》ともなく悲哀《あはれ》を感《かん》じて來《き》た。すべて人《ひと》は感情《かんじやう》の動物《どうぶつ》で、樂《た》しき時《とき》には何事《なにごと》も樂《たの》しく見《み》え、悲《かな》しき時《とき》には何事《なにごと》も悲《かな》しく思《おも》はるゝもので、私《わたくし》は今《
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