でき》まいと考《かんが》へたので、喫煙室《スモーキングルーム》に行《ゆ》かんか、其處《そこ》も暑《あつ》し、寧《むし》ろ好奇《ものずき》ではあるが暗夜《あんや》の甲板《かんぱん》に出《い》でゝ、暫時《しばし》新鮮《しんせん》の風《かぜ》に吹《ふ》かれんと私《わたくし》は唯《たゞ》一人《ひとり》で後部甲板《こうぶかんぱん》に出《で》た。此時《このとき》時計《とけい》の針《はり》は既《すで》に十一|時《じ》を廻《めぐ》つて居《を》つたので、廣漠《くわうばく》たる甲板《かんぱん》の上《うへ》には、當番《たうばん》水夫《すゐふ》の他《ほか》は一|個《こ》の人影《ひとかげ》も無《な》かつた、船《ふね》は今《いま》、右舷《うげん》左舷《さげん》に印度洋《インドやう》の狂瀾《きやうらん》怒濤《どたう》を分《わ》けて北緯《ほくゐ》十|度《ど》の邊《へん》を進航《しんかう》して居《を》るのである。ネープルス[#「ネープルス」に二重傍線]港《かう》を出《い》づる時《とき》には笑《え》めるが如《ごと》き月《つき》の光《ひかり》は鮮明《あざやか》に此《この》甲板《かんぱん》を照《てら》して居《を》つたが、今《
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