》や領事館《りようじくわん》で、本國《ほんこく》の珍《めづ》らしき事件《こと》を耳《みゝ》にする外《ほか》は、日本《につぽん》の新聞《しんぶん》などを見《み》る事《こと》は極《きは》めて稀《まれ》であるから、私《わたくし》は實《じつ》に懷《なつ》かしく感《かん》じた。急《いそ》ぎ皺《しわ》を延《のば》して見《み》ると、これは既《すで》に一|年《ねん》半《はん》も前《まへ》の東京《とうけい》の某《ぼう》新聞《しんぶん》であつた。一|年《ねん》半《はん》も前《まへ》といへば私《わたくし》がまだ亞米利加《アメリカ》の大陸《たいりく》に滯在《たいざい》して居《を》つた時分《じぶん》の事《こと》で、隨分《ずいぶん》古《ふる》い新聞《しんぶん》ではあるが、古《ふる》くつても何《な》んでもよい、故郷《こきやう》懷《なつ》かしと思《おも》ふ一|念《ねん》に、眼《め》も放《はな》たず讀《よ》んでゆく内《うち》、忽《たちま》ち眼《め》に着《つ》いた一|段《だん》の記事《きじ》があつた。それは本紙《ほんし》第《だい》二|面《めん》の左《さ》の如《ごと》き雜報《ざつぽう》であつた。
◎櫻木豫備海軍大佐の行衞[#「櫻木豫備海軍大佐の行衞」に二重丸傍点]==讀者《どくしや》は記臆《きおく》せらる可《べ》し、先年《せんねん》一|種《しゆ》の強力《きやうりよく》なる爆發藥《ばくはつやく》を發明《はつめい》し、つゞいて浮標水雷《ふへうすゐらい》、花環榴彈等《くわくわんりうだんとう》二三の軍器《ぐんき》に有功《いうこう》なる改良《かいりよう》を施《ほどこ》したるを以《もつ》て、海軍部内《かいぐんぶない》に其人《そのひと》ありと知《し》られたる豫備海軍大佐櫻木重雄氏《よびかいぐんたいささぐらぎしげをし》は一|昨年《さくねん》英國《エイこく》に遊《あそ》び歸朝《きてう》以來《いらい》深《ふか》く企《くわだ》つる所《ところ》あり、驚《おどろ》く可《べ》き軍事上《ぐんじじやう》の大發明《だいはつめい》をなして、我國々防上《わがくにこくぼうじやう》に貢獻《こうけん》する處《ところ》あらんと、兼《かね》て工夫《くふう》慘憺《さんたん》の由《よし》仄《ほのか》に耳《みゝ》にせしが、此度《このたび》いよ/\機《き》熟《じゆく》しけん、或《あるひ》は他《た》に慮《おもんぱか》る處《ところ》ありてにや、本月《ほんげつ》初
前へ 次へ
全302ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング