《かた》ると少年《せうねん》も大賛成《だいさんせい》、勿論《もちろん》釣道具《つりどうぐ》は無《な》いが、幸《さひわひ》にも艇中《ていちう》には端艇《たんてい》を本船《ほんせん》に引揚《ひきあ》げる時《とき》に使用《しよう》する堅固《けんご》なる鐵鎖《てつぐさり》と、それに附屬《ふぞく》して鉤形《つりばりがた》の「Hook《フツク》」が殘《のこ》つて居《を》つたので、それを外《はづ》して、鉤《フツク》に只今《たゞゐま》の小鰺《こあぢ》を貫《つらぬ》いてやをら立上《たちあが》つた。天涯《てんがい》渺茫《べうぼう》たる絶海《ぜつかい》の魚族《ぎよぞく》は、漁夫《ぎよふ》の影《かげ》などは見《み》た事《こと》もないから、釣《つ》れるとか釣《つ》れぬとかの心配《しんぱい》は入《い》らぬ、けれど餘《あま》りに巨大《きよだい》なるは、端艇《たんてい》を覆《くつが》へす懼《おそれ》があるので今《いま》しも右舷《うげん》間近《まぢか》に泳《およ》いで來《き》た三四|尺《しやく》の沙魚《ふか》、『此奴《こいつ》を。』と投込《なげこ》む餌《え》の浪《なみ》に沈《しづ》むか沈《しづ》まぬに、私《わたくし》は『やツ。しまつた。』と絶叫《ぜつけう》したよ。海中《かいちう》の魚族《ぎよぞく》にも、優勝劣敗《ゆうしやうれつぱい》の數《すう》は免《まぬ》かれぬと見《み》へ、今《いま》小《ちいさ》い沙魚《ふか》の泳《およ》いで[#「泳《およ》いで」は底本では「泳《およ》いて」]居《を》つた波《なみ》の底《そこ》には、驚《おどろ》く可《べ》き巨大《きよだい》の一|尾《び》が居《を》りて、稻妻《いなづま》の如《ごと》く躰《たい》を跳《をど》らして、只《たゞ》一|口《くち》に私《わたくし》の釣《つり》ばりを呑《の》んでしまつたのだ。忽《たちま》ち、潮《うしほ》は泡立《あわだ》ち、波《なみ》は逆卷《さかま》いて、其邊《そのへん》海嘯《つなみ》の寄《よ》せた樣《やう》な光景《くわうけい》、私《わたくし》は一生懸命《いつせうけんめい》に鐵鎖《てつさ》を握《にぎ》り詰《つ》めて、此處《こゝ》千番《せんばん》に一番《いちばん》と氣《き》を揉《も》んだ。もとより斯《かゝ》る巨魚《きよぎよ》の暴《あ》れ狂《くる》ふ事《こと》とてとても、引上《ひきあ》げる[#「引上《ひきあ》げる」は底本では「引上《ひきあ》ける」]どころ
前へ 次へ
全302ページ中103ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング