な箱を室《へや》の隅から持出し、
「阿父様、不思議と云えば不思議でしょう、此様《こん》な箱が森林の中に落ちて居りました」と答えた。
伯爵は其箱を見、この答えを聴くより、忽《たちま》ち露子の腕を取って、其腕に玉村《たまむら》侯爵から贈って来た腕環《うでわ》を嵌《は》め満面に溢《あふ》るるばかりの笑《えみ》を湛《たた》えて、
「露子こそ最も勇ましき振舞をしたものだ、此腕環は和女の物である、爾《そ》して此箱も私《わし》が好奇《ものずき》の玉村侯爵の申込により、あの淋しい森林中に置いて、和女等三人の内、誰が一番勇ましいかを試したもの、侯爵の書面に『この腕環を得し人は、同時に更に多くの宝物を得べき幸運を有す』とあったのは、即《すなわ》ち勇気ある者が、此箱を取る事が出来ると云う事を意味するのだ、私《わし》は一つ此箱を開けて見せよう、之《こ》れも総《すべ》て露子の物である」と云いつつ、隠袋《ポケット》から鍵《かぎ》を取出して其箱を開けば、中から出て来たのは、金銀宝玉の装飾品数十種、いずれも眩《まばゆ》きばかりの珍品である。
一番目の娘も二番目の娘も、森林を探検し得なかった臆病《おくびょう》が露顕して真赤になった。
明日《あした》はお正月! 露子は何《ど》の様に楽しい事であろう。
底本:「少年小説大系 第2巻 押川春浪集」三一書房
1987(昭和62)年10月31日第1版第1刷発行
底本の親本:「春浪快著集 第二巻」大倉書店
1916(大正5年)年9月11日発行
初出:「少年世界」
1907(明治40)年1月号
入力:田中哲郎
校正:noriko saito
2005年8月19日作成
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