した者をば、今夜一番勇ましい振舞をした者と認め、私は玉村侯爵に代り此《この》腕環を与える事としよう」
「まあ厭な試験方法ですこと」と、一番目の娘も二番目の娘も叫んだ。
「厭なら仕方が無い、権利を放棄《ほうき》する迄《まで》さ、其代り此腕環を貰《もら》う事は出来ないぞ」
腕環の貰えぬのは閉口である、「それなら参りましょう」と二人共答えた。
伯爵は三番目の娘の露子《つゆこ》に向って、
「露子、和女《そなた》は何うじゃ」
露子は此時初めて口を開き、
「ハイ、妾《わたし》何んだか恐《こわ》い様に思いますけど、阿父様の仰《おっ》しゃる事なら参りましょう」
斯《か》くて相談は定《き》まり、三人の娘は一人ずつ流星の落ちた森林を探検する事となった。
先《ま》ず一番先に出かけたのは一番目の娘であったが、唯《た》だ一人小さい角燈を下げて家を出ると、朧月夜に風寒く、家を離れれば離れる程|四辺《あたり》は淋しくなって、やがて森林の側《そば》まで来て見れば、林中は真暗で何んだか化物《ばけもの》でも潜んで居るよう、何うしても踏み込んで探検する気にはなれず、一歩進んでは二歩退き、二歩進んでは三歩退き、其間に独り思うには、此林中には立木と草のあるばかり、流星が此処《ここ》で消えたとて何んの不思議な物が落ちて居るものか、好奇《ものずき》に此様《こん》な気味の悪い森林に入るよりは此儘《このまま》此処から家に帰り、阿父様に林中の有様を問われたら、森林を残る隈《くま》なく探検しましたが、唯だ立木と草のあるばかりで、不思議な物は少しも見えませんかったと答えよう、此方が余程利口であると、娘の癖に狡猾《ずる》い事を考え、来る時の足の遅さとは反対に、飛ぶ様に家に帰って来た。
次に行《い》ったのは二番目の娘であったが、此娘は姉様より更に臆病《おくびょう》なので、森林の側まで行くか行かぬに早や身慄《みぶる》いがし矢張り姉様と同じ様な狡猾い事を考え、一目散に家に帰って来た。
三 流星の落し物
今度は三番目の娘|露子《つゆこ》の番である、露子とて年若き娘の身の、何んで夜の恐ろしさを感ぜずには居よう、けれど彼女は極《ご》く正直な性質なので、一旦《いったん》父君に森林を探検して来ると約束した以上は、たとえ生命《いのち》を取られても其《その》約束を果さねばならぬと思い、森林の側《そば》まで来た時は夜《よ》
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