った。彼は遊びに行っても外泊は一度もしなかった。彼は寝具だけは身分不相応のものを作っていて、羽根蒲団など、自分で鳥屋から羽根を買って来て器用に拵《こしら》えていた。
 いくら探してみてもこれ以上の慾が自分に起りそうもない、妙に中和されてしまった自分を発見して柚木は心寒くなった。
 これは、自分等の年頃の青年にしては変態になったのではないかしらんとも考えた。
 それに引きかえ、あの老妓は何という女だろう。憂鬱な顔をしながら、根に判らない逞《たく》ましいものがあって、稽古ごと一つだって、次から次へと、未知のものを貪《むさぼ》り食って行こうとしている。常に満足と不満が交《かわ》る交る彼女を押し進めている。
 小そのがまた見廻りに来たときに、柚木はこんなことから訊《き》く話を持ち出した。
「フランスレビュウの大立者の女優で、ミスタンゲットというのがあるがね」
「ああそんなら知ってるよ。レコードで……あの節廻しはたいしたもんだね」
「あのお婆さんは体中の皺《しわ》を足の裏へ、括《くく》って溜めているという評判だが、あんたなんかまだその必要はなさそうだなあ」
 老妓の眼はぎろりと光ったが、すぐ微笑
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