行かなければならなくなりましたのは、男女の哀別離苦の情、目もあてられぬほどのものでありました。しかし、その悲哀にも男女おのづからの差はありました。
男は、女が男の遠く去つたあとの寂寞、男が遠隔の地で長の月日(男は三ヶ年行つて居なければなりませんでした。)を過す間に、自分に対する恋の心がうすらいで、他に心を移すやうな場合さへ想像しての純粋な慟哭であるのにくらべて、男は、女の純粋な貞操にふかくたのむ処を持ち、ましてその朝鮮行は、男女周囲の圧迫による止むなき結果ではありましたが、男の事業慾の発露の一端にその朝鮮行はふれて居たものでありましたから悲哀のなかにも一縷の希望を持つて居た処に、男の悲哀は女に較べてその程度の差異はかなりあつたかもしれません。
しかしとにかく二人ははたで見る目も無惨な哀別離苦のかぎりをつくし、かたく再会を約して別れました。
三年は経過しました。
男は無事、かなりな貯金と、事業の端緒を得て女を迎へに日本の東京へかへりました。
諸氏は男が女の許へ帰るが否や、どんなにか二人の間に劇的な、再会のよろこびが叙されたかを想像することでせう。
しかし、決して、それは大変な
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