れました。自分の為め、自分を恋ひ慕ふの情にさいなまれたその結果、斯うやつれ果てたといふ憐憫の意識は、直ぐその後に頭に登つては来ましたが、いぢわるく一瞥の時の悪感につきまとはれてどうすることも出来ませんでした。
他に一分も心を寄せ合はなかつた相愛の男女が、三年目の再会後、間もなく永遠の破綻を来らしめました。
[#ここで字下げ終わり]
この一例など至極不思議のやうでもあり、またつい平凡なやうにも考へられます。
恋といふものを尊重すべきものか通常視すべきものか私にも分らなくなりました。始めの書き出しにはロマンチツクなしかも現実に即した人生行路の処々に置かれてある、眼に見ましく手にとらまほしき一篇の詩のやうには書き出しはしましたが…………。
底本:「日本の名随筆29 恋」作品社
1985(昭和60)年3月25日第1刷発行
1991(平成3)年10月20日第16刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:渡邉つよし
校正:菅野朋子
2000年7月11日公開
2005年6月24日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング