「嫌だ。今ごろあんなことでからかっちゃ。だけれどあなただって、婦人雑誌なんかで、よく、どうしてあなたはあなたのお子さんを教育なさいましたか、なんて問題に答えていらっしゃるじゃありませんか。僕はあれを覚えてていざとなったら母もだし[#「だし」に傍点]につかいかねなかった……」
「そんなに私に逢わなけりゃならなかったの」
「嫌だ。そんなこと、そんなにくどく云っちゃ」
規矩男がますます赫くなるので、かの女はもっとくどくからかい度くなった。
「かりによ。あの時、ではお母さんとご一緒にお出下さい、是非お母さんと……と、私がどうしてもお母さんと一緒でなければお逢いしないと云って上げたらどう?」
「事態がそうなら僕は母と一緒に伺ったかも知れないな」
「そして子供の教育法をお母さんに訊《き》かれるとしたら、規矩男さんの教育係みたいに私はなったのね」
「わははははあ」規矩男は世にも腕白者らしく笑った。
「それも面白かったなあ、わははははあ」
「何ですよ、この人は……そんな大声で笑って」
規矩男は今度は大真面目《おおまじめ》になって、
「だけど運命の趨勢《すうせい》はそうはさせませんね。僕は世の中は大
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