色になって、動く力を失っている。
靠《もた》れ框《がまち》の角の花壺《はなつぼ》のねむり草が、しょうことなしに、葉の瞼《まぶた》を尖《さき》の方から合せかけて来た。
壁の前に、左の腕にナフキンをかけて彫刻のように突立っているギャルソンの頭が、妙に怪物染みて見える。
「みんな、この子と仲好くしてやって下さいね」かの女はグループを見廻《みまわ》してそういった。
「たのみますよ」
時に、かの女のいるテーブルの反対側の広間から、俄《にわか》に鬨《とき》の声が挙って、手擲弾《てなげだん》でも投げつけたような音がし出した。かの女はぴくりとして怯《おび》えた。同じくびっくりした壁の前のギャルソンは、急いでその方へ駆けて行ったが、すぐ一抱えにクラッカーの束を持って来て、テーブルの上へ投げ出した。
謝肉祭《カルナヴァル》
もう、そのとき、クラッカーを引き合って破裂させる音は、大広間一面を占領し、中から出た玩具の鳴物を鳴らす音、色テープを投げあうわめき、そしてそこでも、ここでも、※[#「※」は「口+喜」、第3水準1−15−18、637−下−13]々《きき》として紙の冠《かぶ》りものを頭に嵌《は》
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