そういう順序を立てた考え深いところもあるのね。そういうところは、あたし敵《かな》わないと思うわ」
かの女は言葉通り尊敬の意を態度にも現わし、居住いを直すようにしていった。しかし、こういう母親を見るのはむす子には可哀《かわい》そうな気がした。それで、その気分を押し散らすようにしてむす子はいった。
「なに、僕だって、おかあさんと同じ性分なんです。そしておかあさんだってずいぶん考え深い方でなくはありませんさ。けれどもおかあさんは女ですから、それを感情の範囲内だけで働かして行けばすみますが、僕は男ですからそうは行きません。そうとう意志を強くして、具体的の事実の上にしっかり手綱を引き締めて行かなければ、そこが違うんでしょうねえ」
けれども、一たんむす子へ萌《きざ》した尊敬の念は、あとから湧《わ》き起るさまざまの感傷をも混えて、昇り詰めるところまで昇り詰めなければ承知出来なかった。かの女は感心に堪え兼ねた瞳《ひとみ》を、黒く盛り上らせてつくづくいった。
「なるほど一郎さんは男だったのねえ。男ってものは辛《つら》いものねえ。しかし、男ってものは矢張り偉いのねえ」
これには流石《さすが》にむ
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