な画家です。ただ、今のところ彼は絵を売らないだけです。
「私が私の持っている才能や経験で、彼に金になるような仕事の方法を教えてやるのは造作もないことです。彼はまたそれを立派にやって除《の》けましょう。しかし、それは恐ろしいことです。彼は出来るだけ自由に働かして、金や生活のことに頭を使わせたくないんです」
かの女は、自分がすでに感じていることを今更云い出されるような迂遠《うえん》さを感じた。しかし、長幼老若の区別や、有名無名の体裁を離れて、実際の力の上から物を云うモンパルナスの芸術家気質の言葉を、尊敬して傾聴した。場合によっては、このむす子を自分のむす子としてより、日本の誇として、世界の花として、捧げねばならない運命になるかも知れない。晴がましくも、やや寂しい。
かの女は一行とゆるゆる日比谷公園の花壇や植込の間を歩きながら、春と初夏の花が一時に蕾をつけて、冬からはまるで幕がわりのように、頓《とみ》に長閑《のどか》な貌様《ぼうよう》を呈して来る巴里《パリ》の春さきを想い出した。濃く青い空は媚《こび》を含んでいつまでも暮れなかった。エッフェル塔は長い長い影を、セーヌ河岸の樹帯の葉の上
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