に似てるといっても形だけなんでございますよ。あれはとても主人のようにはなれますまい」
 ここでまた夫人は白く笑った。
 夫人が云ってる様子は、かの女に云っているのか、独白なのかけじめのつかないような云い方だった。
「奥さま、あなたはさっき規矩男を、なかなかしっかりしてると仰《おっしゃ》って下さいましたが、そう云って下さるお心持は有難うございますけれども、実際規矩男はやくざ[#「やくざ」に傍点]で、世間の評判もよくありません。中学や高等学校はよく出来たんですけれども、それからが一向|纏《まと》まらないんです。多分、老後の父親が、つまらないことを死ぬまで云い聞かせて置いたためでしょう」
「それは規矩男さんからもうかがいました。でも、規矩男さんはいまそういうことに就《つ》いてだいぶ考えていらっしゃるようでございますが」漸《ようや》くかの女は言葉を挟む機会を捉《とら》えた。「大丈夫だと存じますが……」
「そうでございましょうか。わたしはあれが、どうせ主人のようにはなれませんでも、わたくしは何とかしてあの子を、勤め先のはっきりした会社員か何かにして、素性のいい嫁を貰って身を固めさしてやり度いと思
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