ティが僕の母なんかにはまるでない」
「なまじいオリジナリティなんかあるのは自分ながら邪魔ですよ」
「そうだ。あなたはご自分の天分でもなんでも、一応は否定して見る癖があるんだな……癖か性質かな。それがあなたをいつも苦しめてるんでしょう。けどそれが図破抜《ずばぬ》けたあなたの知性やロマン性やオリジナリティに陰影をもたせて、むしろ効果を挙げているのではありませんか」
「でもうちの先生は、それが私にどれ程損だかって、いつも云っているのよ」
「先生は実は一番あなたのその内気な処を愛していらっしゃるんじゃないですか……むす子さんも……」
かの女はむす子が巴里《パリ》の街中でも、かの女を引っ抱えるようにして交通を危がり、野呂間《のろま》野呂間《のろま》と叱《しか》りながら、かの女の背中を撫《な》でさするのを想《おも》った。かの女は自分の理論性や熱情を、一応否定したり羞恥心《しゅうちしん》で窪《くぼ》めて見るのを、かの女のスローモーション的な内気と、どこ迄一つのものかは、はっきり判らなかったが、かの女は自分の稚純極まる内気なるものは、かの女の一方の強靱《きょうじん》な知性に対応する一種の白痴性ではな
前へ
次へ
全171ページ中105ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング