えると、いつもの懐しげな様子に似ずどんどん早足に帰ろうとします。私はお返しが上げ度くも気がせいて、手近に有合せの日本から持って行ったものを、一つかみにしてあとを追いました――猫の毛でつくった日本の細筆三本、五色のつまみ[#「つまみ」に傍点]細工の小箱一つ、桜の縫いのしてあるハンカチ一枚――あとで考えても、おかしな贈物でした。直ぐあとから、こつこつ可愛らしい靴の足音がして、パン屋の七つになる女の児が、パンとお砂糖でつくった猫を持って来て呉れた。猫の首まきへ私がいつか教えてやった[#「やった」は底本では「やつた」]日の丸を真似てこしらえた小さな日章旗と独逸の旗を二本※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]して来た。そして――おねえちゃま(外国人には東洋人の年齢がなかなか解らない)はい、クリスマス――と言ってさし出しました。私はあんまり可愛ゆくなって、日本から持って行った藤の花を描いた日傘を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]しかけて返して上げた。これもあとから思えばおかしな贈物。
 午後からは、男女まぜこぜのベルリン大学の
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