といった処へ、時々素晴らしい毛皮の令嬢奥様も交った調和が、かえって淋しく品の好い高級品屋の店頭より綺麗なのです。電燈までが安値に心易い光をそれらの人達にきらきら浴びせる美しさ、そして暖かさ、みなクリスマスの買物の人達を見せる光景です。それが殆ど軒並みなのです。
菓子屋の店を覗く。豚のびっくりするような大きいチョコレート菓子可愛ゆい麦粉菓子のヒヨコ、馬鈴薯が本物かと思ったらやっぱり何かを練ってつくったお菓子なのです。それらの間をつづってオリーブのつくり葉が、金銀のモール線を綾なして居るのは、どこでも同じしつらえではあるが、独逸はやっぱり独逸らしい。靴屋の安売――運動靴に、平常《ふだん》靴に、雪靴に、金と赤のイヴニングシューズまで寄せて一円五十銭也と括りの紐の結び目に正札で下って居ます。――嘘ではないの、こんなに安く売っては儲からないでしょう。
と言うと、靴屋の主人気むずかしい顔で愛嬌よく笑って、
――ほんとうですとも、いくらだってクリスマス前に売っちまわなけりゃあ、これが今の独逸の「クリスマス値段」ですから。
そうしてみると、日本の大晦前のような財政情況なのかな、と私は覚りました
前へ
次へ
全6ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング