ソン》たちが眺めのいい窓の卓子《テーブル》へ集まってゆっくり晩飯を食べていた。当番の給仕男が同僚たちに客に対すると同様に仕付《しつ》けよく給仕していた。
「今日は遊びかね。」
という声がした。すぐそれは探偵《たんてい》であることが判《わか》った。リゼットは怖くも何とも無《な》かった。この子供顔の探偵は職業を面白がっていた。リゼットが始めて彼に捉《とら》えられてサン・ラザールの館《シャトウ》――即《すなわ》ち牢屋《ろうや》へ送り込まれるときには生鳥《いけどり》の鶉《うずら》のように大事にされた。真に猟《りょう》を愛する猟人《かりうど》は獲《え》ものを残酷《ざんこく》に扱うものではない。そして彼女が鑑札《かんさつ》を受けて大びらで稼ぎに出るとなるとこの探偵は尊敬さえもしてくれた。尊敬することによって自分が一人前にしてやった女を装飾《そうしょく》することは職業に興味を持つ探偵に取って悪い道楽《どうらく》ではなかった。
「可愛《かわい》い探偵さん。鑑札はちゃんと持っててよ。」
リゼットはわざと行人《こうじん》に聞《きこ》えるような大きな声を出した。
「ああ、いいよ、いいよ、マドモアゼル。」
彼は却《かえ》って面喰《めんくら》った。だがその場の滞《とどこおり》を流すように、
「今日は僕も休日さ。」
といってちょっとポケットから椰子《やし》の実を覗《のぞ》かして向《むこ》うへ行った。多分《たぶん》モンマルトルの祭《まつり》の射的《しゃてき》ででも当てたのだろう。
モンマルトルへはリゼツトは踏み込めなかった。ポアッソニエの通りだけが彼女に許された猟区《りょうく》だった。その中でもキャフェ――Rが彼女の持場《もちば》だった。この店へは比較的英米客が寄り付くので献立表《こんだてひょう》にもクラブ・サンドウィッチとか、ハムエッグスとかいう通俗《つうぞく》な英語名前の食品が並べてあった。
客が好んで落ちつく長椅子《ソファ》の隅《すみ》――罠《わな》はそこだ。その席上を一つあけて隣の卓子《テーブル》へ彼女の一隊は坐《すわ》った。
彼女に惚《ほ》れているコルシカ生《うま》れの給仕男《ギャルソン》が飛んで来て卓子を拭《ふ》いた。
「注文はなに? ペルノか、よし、ところでたった今、レイモンがお前を尋《たず》ねて来たぜ。」
彼は何でも彼女の事を知っていた。彼女の代《かわ》りに彼が金
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