我儘を恥じる恥じるとそればかり申してな。髪形は気にする言葉使いは気にする。人の評判は気にするからもう以前の麗姫では無くなりました。どうしたことでしょう。それで却って洛邑の人気を落して仕舞ったわけです。あの娘はあの勝手気儘なところで人を引きつけて居たのですからな。で私は云ってやりました。荘先生がそなたの我儘を見に来たと云われたのは却ってそなたののびのびして生きて居られる様子を快哉《かいさい》に感じられ「道」を極める荘先生に好い影響さえお与え申したのだ。見当違いに恥じたりなさるな。と呉々《くれぐれ》も申し聞かせたのですが駄目です」
 荘子は腕を措き眼を瞑《つむ》って深く考え沈んで居たがやがて沈痛な声の調子で云った。
「然《しか》し、それもまた天恵に依る物化の一道程かも知れないから、致し方もあるまい。丁度わしが書物や筆を捨てて薪割りの斧を取上げたようにな」
 遜はまじまじと荘子の顔を見て居たがややせき込んだ調子で云った。
「私には何もかもまだはっきりと分りませんが、斯《こ》ういうことも麗姫に云って聞かせてやったのです。南海に※[#「條」の「木」に代えて「黨−尚」、第3水準1−14−46]《し
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