慈悲
岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)極《き》めて

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   (数字は、底本のページと行数)
(例)うかつもの[#「うかつもの」に傍点]
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 ひとくちに慈悲ぶかい人といえば、誰にでもものを遣る人、誰のいうことをも直ぐ聞き入れてやる人、何事も他人の為に辞せない人、こう極《き》めて仕舞うのが普通でしょう。それはそうに違いないでしょう、それが慈悲ぶかい人の他人に対する原則ですから。
 然し、原則というのは結局原則であります。ものごとが凡て、原則どおり単純に行って済むのなら世の中は案外やさしいものです。お医者でも原則通りですべて病人が都合よく処理出来るなら、どのお医者でもみな病理学研究室に閉じこもって居れば世話はありません。なにも、面倒な臨床学など習って実地研究の何年間など費《ついや》す必要は無いわけです。処が、その必要がある。ありますとも、其処《そこ》が臨機応変、仏教のいわゆる、「時《じ》、処《しょ》、位《い》」に適する方法に於いて原則を実地に応用しなければなりません。
 本当の慈悲とは、此
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