て恥ずかしそうに行き過ぎた。メリンスの帯が桃の花と対照してその娘を一そう可憐に美しく見せた。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――あれだろう、君のお付きになるのは。
――ええ、あれ、どう?
――いい娘ってんだろうなあ。
[#ここで字下げ終わり]
 好い娘過ぎて「お米」は村で使い手が無かった。家の娘より美しい娘は負け惜しみの強い都会近在のこの土地では使い方がなかった。兄妹の母親はそれを選んで女学校卒業期に近い妹のため「お米」をおつきにすることにした。「お米」は近郷一の高位の令嬢のお付きになる光栄の日を待っているのであった。それが偶然途中で逢って口も利けない程恥ずかしくうれしかった。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――あのね、兄様、お母さんがね、お米は美しいけど……
――なにさ。
――お前には、ずっとお米より「くらい」が見えるんだから、ひけめをかんじてはいけないよって……
――ああ、そうだとも君。
[#ここで字下げ終わり]
 兄は内気ながら凜《りん》とした処のある妹のあまり整っていなくとも、眼と額の際だって美しい妹の顔を振り返った。



底本:「岡本かの子全集2」ちくま文庫、筑摩書房
   1994(平成6)年2月24日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第十四卷」冬樹社
   1977(昭和52)年5月15日初版第1刷
初出:「令女界」
   1936(昭和11)年3月号
入力:門田裕志
校正:オサムラヒロ
2008年10月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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